嵐が近づいているのか、外は風鳴りがきつかった。
窓辺に佇んでいた楊戩がふと、口にする。
「雨は好きです」
そう言った楊戩を、玉鼎は背後から抱きしめた。
「何故?」
夜着の上から這わされた手に、微かに喘ぎながら楊戩は答える。
「何処にも行けないから・・・こうして師匠と一緒にいられます」
「可愛い事を言う」
襟を割られて、悪戯な指先が侵入してきた。
「あ・・・っ」
ぴくんと竦んだ体をさらに強く抱きしめ、玉鼎が寝台へと誘った。
柔らかな寝台に組み敷かれた楊戩が玉鼎を見上げた。
「まだ、おまえの体は頑なだな。幾度抱いても、慣れる事のない・・・」
玉鼎の言葉に、目の奥が熱くなった。
何故、全てを曝け出せないのだろう。
こんなにも、師は優しく包んでくれているというのに。
抱かれる事が嬉しい、と伝えたかった。
それなのに・・・。
人でいなさい、と。楊戩は言い含められていた。
この崑崙で、妖怪の出自を暴かれないように。
それは何時しか硬い殻となって楊戩に覆い被さっていた。
「泣きたいか?」
楊戩を愛撫する手は止めないまま、玉鼎が尋ねてきた。
「泣きたいなら、泣くがいい。おまえは、我慢している事が多いようだが、私の前ではその必要はない、
・・・と常に言っているのだがな」
玉鼎の言葉は優しい。
優しいからこそ、切なかった。
「師匠・・・」
「私のせいか?」
楊戩はその問いには答えられなかった。
くすりと笑った玉鼎が、熱を帯び始めた楊戩の頬に口づけた。
「私達には時は無限にある。時間をかけて、私がお前を暴いていってやろう」
夜着の帯が解かれた。
消されていなかった仄かな燭の明かりの下に、楊戩の裸体が照らされた。
玉鼎の手が、項垂れた楊戩を確かめる。
「やっ・・・!」
「快楽に流されないように、堪えているのか?」
ぐっと握りしめられ、楊戩が悲鳴した。
強く揉みしだかれて、苦痛に楊戩は顔を歪めた。
「心が頑ななら、今宵は体を先に陥落させよう」
玉鼎の唇が項へと落ちた。
「止めて、下さい・・・痛い・・・」
「前を弄られるのは嫌か? ではこっちはどうだ?」
「ああ・・・っ」
いきなり、後孔の窄まりに指を入れられる。
「嫌・・・っ!」
本能的に逃げようと身もがいた体は、きつく押さえつけられた。
乾いているから、玉鼎の指が何時もより生々しく感じられた。
入りこんでくる、他人の体の一部。拒もうとしても、玉鼎を知る体は反応し、知らず、
絡みついてゆく。
それがわかるから、楊戩は玉鼎に指を抜いてくれるよう頼んだ。
「やめて、下さい・・・っ」
「感じる事を否定するのは良くない」
長い指先を楊戩の奥まで差し入れ、玉鼎はぐいっと曲げた。その強烈な刺激に、楊戩は
背中を撓らせる。
「・・・っ、あ・・・いや・・・」
爪を立てられて痛いはずなのに、それだけではなかった。
力を入れられた場所から、疼痛のような何かが広がってゆく。そして、痛みは突然快楽へと
変化し、熱を生んだ。
「・・・や、嫌、だ・・・」
竦みあがっている楊戩に、玉鼎は微笑した。
その笑みが口づけられている項から肌に感じられた。
「そうかな? ここの具合は良くなってきているようだが?」
顔を上げて、楊戩の表情を覗きこみながら、玉鼎は指を抜き差しした。視線で頬をなぞられる
だけで、体が震えた。
「そろそろ、いいか・・・」
「・・・あ・・・っ」
何時の間にか二本に増えていた指を引き抜かれて、楊戩は喉を鳴らした。
指で弄ばれていら後孔は開いたまま、なかなか閉じてはくれなかった。力を入れると逆に、
疼くように開閉をしてしまう。
「どうして・・・」
楊戩は両手で顔を覆った。
はしたない自分の体を制御出来ない事がもどかしい。
せめて、玉鼎の視線から逃れようとしたのだが、手首を掴まれ、寝台に縫いとめられてしまった。
「どうした? 下の口が寂しそうにしているのが恥ずかしいのか?」
闇を映した黒い瞳が揶揄うように楊戩を見つめた。
手首を押さえていた玉鼎の手はすぐに離れ、次いで両足が抱え上げられた。
「おまえからは見えないが、物欲しそうにしている。随分疼いているようだな」
「ち・・・が・・・っ」
自分の状態を言葉で表現されて、楊戩は全身を紅潮させた。
こんなふうに言葉でまで責められるなんて、ただでさえ、自身を制せず恥辱に耐えている
楊戩には辛すぎた。
「恥ずかしいか?」
玉鼎が火照った楊戩の頬へと唇を寄せた。
「体はこんなにも素直だ。指で苛められる事は好きだろう? ・・・いや」
少し首を傾げた玉鼎が言葉を続けた。
「もっと強烈な事をされる方が、良いか」
「嫌です、師匠、こんな事は・・・嫌なのに・・・」
「本当に?」
「あう・・・っ」
「ここは気持ちよさそうになっている」
「・・・く・・・っ」
性器をそろりと撫ぜられた。それが楊戩に更なる羞恥を与えた。玉鼎の言う通り、楊戩のそこは
切なく形を変えていた。
「触らないで・・・」
先ほど、握りしめられた痛みが蘇った。勃起した状態で同じ事をされたら、より、辛い。
「痛い事をされたくなかったら、大人しくしなさい。尤も、おまえが望むなら、そうしてやっても良いが」
玉鼎は考え込むようなそぶりを見せると、楊戩がこんな時だというのに、とても優しく笑んだ。
「違う・・・、望んでなんか・・・」
ずくんと体に熱が走った。
そう、望んでなんか、いない。だが、それは真実だろうか?
楊戩の微妙な心境に、玉鼎は気づいたようだった。身じろぎを止めた瞬間に、小さく声を立てて笑う。
はっと楊戩は我に返った。秘所を剥き出しになれて弄ばれているよりずっと、自分の心を覗かれたような
気がしたのだ。
楊戩は、再び逃れようと身を捩った。
「嫌です、止めて下さい・・・や・・・め・・・っ」
「あまり手こずらせると、拘束しなければならなくなる」
「師匠・・・」
涙を浮かべた瞳を見下ろした玉鼎が告げる。
「それはもっと嫌だろう?」
零れ落ちた滴は指で拭われた。
「私を受け入れなさい」
「嫌・・・」
楊戩は首を振った。
「・・・これだけ柔らかければ、十分だな」
再び、後ろを探った玉鼎は、楊戩の拒絶を全く聞き入れてくれる様子はない。それが、真の拒否では
ないとわかっているから。
細い楊戩の体を抱きしめ、玉鼎は囁いた。
「もう、暴れるな。私のものもまだ完全に硬くなっていないから、入れにくい。だから・・・」
囁きは淫らな響きを含ませて続けられた。
「おまえの中で硬くしてもらう」
「・・・っ!!」
左右に足を大きく広げさせられたせいで、尻が左右に引っ張られ、秘所が露出する。そこに玉鼎のものが
押し当てられた。
「ひうっ!」
肉杭が、後孔を押した。抵抗はあったが、もともと開き気味だったそこは、玉鼎を受け入れてしまった。
性器が楊戩を貫く。
「あああっ」
楊戩は喉を仰け反らせた。
しかし、玉鼎に伸し掛かられ、抱き竦められた状態では、もう逃げる事は出来なかった。
ずぶずぶと体内に、玉鼎が入ってくる。摩擦されると、粘膜が疼いた。
「いや・・・あ・・・」
「おまえの拒絶は本心ではない。だから、・・・」
腰を回すように楊戩を突き上げ、抉りながら玉鼎は言う。
「駄目だ」、と。
楊戩だけが追い上げられる。こんな状態なのに、玉鼎は汗もかかず、おっとりと笑っていた。
深く足を曲げられ、さらに奥まで咥え込まされる。
最初は柔らかだった玉鼎のものも、今はすっかり硬くなっていた。彼の欲望を高めたのは、楊戩の
後孔だった。
それを
「おまえが締め付けるから、私のが硬くなる。心は頑なでも、体は淫らだ」と
耳元で囁かれ、楊戩は羞恥のあまり呼吸を忘れそうになった。
既に楊戩自身も硬くなっていた。下腹に触れるほど反り返って、先端が肌を濡らしていた。
玉鼎はわかっているのに、楊戩に触れる事はなかった。
淫らな熱が楊戩を苦しめ、意識が朦朧としてくる。本能が刺激を欲し、開放したいという願いが
脳裏を占めていく。
「達きたいか?」
意地悪く玉鼎が尋ねた。
「達きたい、です・・・」
楊戩は喘いだ。意地を張る余裕はもう、なかった。
「達か、せて・・・」
「わかった」
あっさりと玉鼎は頷き、楊戩のものに手を添えた。
「ああ・・・」
許してもらえた。これで達く事が出来る。楊戩が快楽を極めようとしたその時、玉鼎は張り詰めた性器の
根本をきつく握りこんだ。
「え・・・っ?」
楊戩は潤んだ眼差しで、玉鼎を見つめた。すると彼は、きちんと視線を合わせて微笑した。
「・・・まだ、駄目だ」
「どうしてっ!」
達かせてもらえると思ったのに。
期待してしまったからこそ、ここにきて堰き止められるのはきつかった。腰が自然に蠢いて体内の玉鼎を
締め付ける。
そんな楊戩に対して、玉鼎は淫らで残酷な事を命じた。
「おまえはこれから、私がおまえの中で達した時にしか、射精してはいけない。
・・・それを、体で覚えなさい」
あまりの命令に楊戩は驚愕した。
「無理です・・・っ。そんな事・・・」
「それならば、何時までもこのままだ。さあ、口に出してみなさい。師匠の------が中で射精してくれたから、
僕は達けます、と」
あからさまな言葉に、楊戩の体は火がついたように熱くなった。まるで幼子が使うような直接的な言葉だ。
それなのに、ひどく興奮してしまう。
玉鼎の命令を口にしなくてはならない事自体、屈辱以外の何物でもないのに。
「言えないなら、このままだ」
「い、嫌・・・止め、て・・・っ」
腰を揺すられ、体の奥深い場所から急かされる。
楊戩の性器は、もうはち切れそうなほど膨らんでいた。このまま焦らされるのは耐えられそうに
なかった。
例え今、体を吹き荒れる嵐を無理やり沈めたとしても、それで許されるはずもなく、再び追い上げられる事は
目に見えている。
先端から溢れる滴で、玉鼎を汚しながら、楊戩は涙し、とうとう口を開いた。
理性はもう残っていなかった。
「師匠の・・・が、中でされたから、僕は達く・・・達けます・・・っ」
返答を待って玉鼎が大きく腰を動かし、楊戩の中で達した。
「------!」
それを感じ、楊戩が絶叫した瞬間、玉鼎は楊戩を解放した。その途端、それは大きく震えて、熱い白濁を
吐き出した。
「ああああっ」
命じられるまま淫らな台詞を口走り、欲望を果たした瞬間、楊戩の中で何かが音を立てて壊れた。
守ってきた物が。殻と、意地と、矜持と。
射精の余韻で惚け、瞬きすら忘れて涙を流し続ける楊戩に、玉鼎は優しい口づけをしてきた。
「良く出来た」
その口づけは、蕩けるように甘く、優しかった。
「だが・・・まだ、足りぬだろう? おまえも、私も」
玉鼎が楊戩の背に腕を回し、華奢な体を抱え起こした。向かい合う形で座らされた楊戩は、自身の重みで、
深く受け入れる事となってしまった。
「今度は自分で腰を動かして、また達くといい。勿論、私が中で射精しないと、おまえは達く事は出来ないが」
柔らかな口調で命じられても、放心したように楊戩は動けなかった。
「仕方のない」
細い腰を掴み、楊戩を持ち上げる。
「・・・っ、あ、もう止め・・・」
膝が離れるほど浮かされたと思った瞬間、すとんと落とされ、粘膜を激しく擦られて楊戩は叫んだ。
再び快楽を引きずり出されていく。
しかし、行為が止められる事はなかった。
後孔での快楽を楊戩に叩き込む、調教にも近い行為。
翻弄されるだけだった楊戩も、根気強い導きの結果、何時しか玉鼎の上で腰を振るようになっていた。
「い・・・っ、あ・・・達く・・・達きたいです、もう、許して下さい・・・」
受け入れる玉鼎の形まで、肉壁でわかるような気がした。もっと強く擦られたいし、抉って欲しい。
でも、玉鼎はもう楽しんでいるのか中々動いてくれないから、楊戩は自ら求めるしかないのだ。
「出したい・・・師匠・・・っ」
「どうしたら、おまえは達く事が出来た?」
楊戩の性器を握り、玉鼎は根気よく問かけた。
「あううっ」
張り詰めた性器は、絶対的な支配者の手の中にあった。玉鼎の手の中で、ぶるぶると震えている。
どうしたら、解放してもらえるか、正解は一つしかなかった。
それを繰り返す事で、さらに壊れていくような気がした。
「中に・・・出して下さい、そして僕を達かせて下さい・・・」
「どうして?」
あまりにも意地悪な問いかけだ。
「達けないから、僕は中で射精して頂けないと達けないから・・・あ・・・っ」
「いい子だ。よく覚えた」
「ああ・・・っ」
仰け反りながら楊戩は達した。
体内に、玉鼎の熱が溢れた。二度目の精液を受け止めた粘膜は、淫らに蠢動していた。
気を失いかけた楊戩を抱きとめ、また玉鼎が囁いた。
「これは、ルールだ。おまえはもう、中で射精されなければ、達せはしない」
意識の奥底に叩き込まれた、それは恐ろしい呪文だった。


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