楊ゼンは部屋に珍しい客を迎えた。
一日の仕事を終え、後は休むだけという時刻だった。
洗ったばかりの濡れた髪を布で包み、ベッドに掛けて彼を見つめた。
太公望や楊ゼンなど、仙界から降りた者達は、小さいとはいえ、個室を西岐城に与え
られていた。これから戦が始まるというのに、朝歌より栄える豊邑の事、調度はかなり
豪華な類である。
・・・尤も、地上の都市と比べて、だ。崑崙で過ごした屋敷に勝る物では決してない。
「酒でも飲まないさ?」
「・・・また町へ行っていたのかい?」
天化が手にしているのは、城内では見かけない葡萄から作られたワインだったので、
楊ゼンは言った。彼がこの城の後継者と共に町をうろつく事はしばしばなのだ。
「ここのは飽きちまったさ」
部屋に入り込んだ天化は、楊ゼンに並んで腰を下ろした。ちゃっかり持参までした二つの
グラスを差し出す。
彼から男らしい体臭を感じて楊ゼンはくらりと目眩がした。男を間近に意識するのは
すいぶん久しぶりで、心に我知らず飢えが起こった。
「大した物はないけど、つまみに果物でも出そうか」
湧き起こった感情を悟られまいと、立ち上がる。棚の中に摘んだばかりのさくらんぼが
あったので、それを小卓に運んだ。
「これは?」
「天祥君が夕刻、持って来たんだ」
「あいつが? ここには良く来るさ?」
「僕の所に出入りしてるって知らなかったかい? 大抵は哮天犬を遊んでいるだけだけど」
「聞いてねえさ。まあ幼児じゃないし、別に構わねえが」
まだ固い実を摘み、口に放りこむ。
「何だこれは!? すっぱいさ。 天祥のやつ、どれでも摘めばいいって物じゃない
だろうに」
大げさに顔を顰め、天化が種を吐き出した。
「・・・天化君」
「悪い悪い」
天化はにっと笑い、落とした種を拾うように上体を屈めた。しかしそれはふりだけで、楊ゼンの
腕を掴む。
「ちょっ・・・何を・・・?」
強い力で引かれ、バランスを崩した楊ゼンが天化を睨んだ。倒れてくる体をしっかり抱き
止めて天化が耳元に囁いた。
「楊ゼンさんは甘いさ?」
瞬間、楊ゼンは天化を突き飛ばしていた。
「馬鹿にするな! そういう相手が欲しいなら、町にいくらでもいるはずだ!」
「俺っちは楊ゼンさんだからさ」
床に膝をついた天化がゆっくり立ち上がった。
「・・・瞳が潤んでる」
「止め・・・」
ざらりと乾いた指が大きな目の周囲をなぞる。
心の中を見透かされたようで、楊ゼンは顔を背けた。
「こっち向くさ」
「嫌だ」
「抱かれたいくせに」
「・・・違う」
「どこがさ?」
ベッドに押し倒された楊ゼンは、明らかに狼狽した声を上げた。
「天化・・・」
「楊ゼンさんをこんなに飢えた感じになるまでほおっておくなんて酷いさ・・・」
覆い被さるように抱きしめた天化の腕がきつく回される。
「男が欲しいなんて思わない」
楊ゼンが両手で顔を覆った。
「思ったりしてはいけないんだ・・・」
天化は、楊ゼンが築いているプライドの高さがわかっていなかった。生来の性格に加え、玉鼎に
きつく躾られた為に、他者に弱みを見せる事を極端に厭う。
「何で我慢なんてするさ・・・」
上着の前が寛げられていき、楊ゼンがはっと息を飲んだ。
「明日になったら、全部忘れるさ・・・俺っち。酒の力を借りても・・・いいさ」
グラスに満たしたワインを楊ゼンの口にそっとあてがって飲ませる。
「ん・・・」
加減がわからず、赤い液体はかなり楊ゼンの唇から溢れてしまい、露になった首から胸の流れた。
それを追って天化が唇を滑らせた。時折甘噛みし、楊ゼンからうめきにも似た声を立てさせる。
「あ・・・あっ」
楊ゼンが身悶えた。既に男を知る体が貪欲になり始める。
「嫌・・・や、だ・・・」
「素直じゃないさ。あまり嫌がると、返って酷い事をしたくなっちまう」
まだ剥がしていない下衣の上から、楊ゼンをきつく握り込む。
「うううっ!」
「ほら・・・こんな風に」
強弱をつけて揉みしだくうちに閉じられた瞳から涙が流れて、慌てて天化は手を離した。
「悪かった・・・さ」
くるりと背を向けてしまった楊ゼンの肩にそっと触れる。
「止めた方がいいさ?」
掌を通して、漣のような震えが伝わった。
「・・・楊ゼン・・・さん・・・」
「・・・なくて、いい・・・」
「え?」
「止めなくていい」
振り返る事はしなかったが、楊ゼンは小さく答えた。
「嬉しいさ・・・」
触れている肩をぐっと引き寄せ、天化は薄く喘ぐ唇を奪った。

ふじっぷ様からのリクです。
表でも裏でも、とありましたので、ソフトな裏にしてみました。
天化は喋り方が難しいですね。どうにもうさんくさい感じかもしれないです。
うーーん。