外で武術の訓練をしていると、すっかり汗ばんでしまうほどの季節になった。
与えられた宝貝の他、剣や弓なども、楊ゼンは教えられた。
師が幼い頃から厳しく躾てくれたせいで、全て一通りに使いこなせる。
馬の背で弓を射ていたのだが、あまりの暑さに楊ゼンは下に降りた。
「また夏になってしまうな」
暑い夏があまり好きではない楊ゼンがため息を吐く。尤も、冬も嫌いなので、楊ゼンのは
子供らしいわがままだと玉鼎は言うのだが。
「汗流してこよう・・・」
楊ゼンは馬を引いて屋敷へと戻った。


「師匠?」
書庫を覗いてみたが、玉鼎の姿はなかった。そこにいる事が多いので、いなければ居場所
に戸惑ってしまう。
私室に行って、居間とサロンを探し、見つけられなくて考え込んでしまった楊ゼンの前に、
ふわりと玉が一つ浮かんだ。
広すぎる金霞洞内で、言葉を伝え合う為の物だった。
「楊ゼン、戻っているのか?」
「・・・師匠こそ、どちらに・・・」
玉鼎からは見えないのに、楊ゼンが唇を尖らせた。
「地下だ。酒でも持って来てくれるか?」
「え?」
階下には湯の湧く泉があるのだ。そこは浴室でもあり、冬は湯が屋敷を温め、夏は蒸気が
湿度と暑さを和らげてくれるという仕組みになっている。
「僕も入っていいですか? 汗でいっぱいです」
玉鼎の苦笑が聞こえた。
「外にいたのか?」
「馬で弓をやっていました」
「時々は机にも向かう事だ。・・・構わぬ。おいで」
声だけで、姿が見えるわけでもないのに、楊ゼンは赤面した。机にじっと向かって学問をする
よりも、外にいる方が好きなのを、揶揄されているようで。
「どうした?」
通信が何時までも繋がったままなのに、玉鼎が不審気に問うた。
「今行きますv」


木の盆に銚子を二本乗せて、楊ゼンは運んだ。
一つは玉鼎の為に。もう一つは、自分がもう酒を飲めるほどに成長したとの微笑ましい見栄の為。
背はとても玉鼎に追いついていないものの、子供ではない、と思って欲しいのだ。
地下へ続く階段を半分も降りると、蒸気が纏いついてきた。
初めから汗ばんでいたせいで、楊ゼンにはそれがずいぶん暑く感じられた。
実際、前髪の生え際から、汗が一筋伝い落ちた。浴衣一枚になってはいたが、服を着けている
事自体が、熱を篭らせる。
湯が寄せていない場所を選んで歩きながら、湯気の中に玉鼎を探した。
「楊ゼン」
戸惑いを察知した玉鼎が呼んだ。
「こちらですか?」
ゆったりと湯に半身を浸している師の横に楊ゼンは膝をついた。二つの杯に酒を注ぎ、差し出す。
「今日は僕もいいですか?」
「珍しい」
静かに玉鼎は笑んだ。
「では服を脱いでみなさい」
「どうして?」
突然言われた事に、楊ゼンは尋ね返した。
「子供でなくなったかどうか、確かめてやろう」
「や・・・っ!」
酒の事でこういう展開になると考えてもみなかった楊ゼンが目に見えてうろたえた。
「嫌です、僕だけが・・・」
普段、湯に入る時も浴衣は外さないから。水に反射する燭灯りが揺らめく中、裸体を晒すなど
恥ずかしくて堪らない。
「命令だ」
「師匠・・・」
赦してもらおうと、玉鼎を窺っても、それ以上の言葉はなかった。
体を震わせ、くるりと背を向けて、楊ゼンは帯に手を掛けた。
月のように白い肌が現れる。
「来なさい」
促されるまま、湯に足を踏み入れる。玉鼎の腕が、華奢な体を引き寄せ、後ろ抱きに膝に座らせた。
幼子のような扱いに、嫌がって楊ゼンはもがいた。
「じっとしていなさい」
玉鼎の指が乳首を撫ぜ、軽く爪で触れた。
「ん・・・っ」
電流が走ったような刺激に、ぴくりと楊ゼンが反応する。痺れるようなぞくぞくする感覚が身の内を
満たしていくのがわかった。
「は、ああ・・・」
熱かった体がもっともっと熱くなる。
「弄られて、感じるほどにはなったか?」
執拗に胸を探られた。嫌々と首を振っても、それは止まなかった。楊ゼンが嫌がる事を今まで玉鼎は
決してしなかったのに。
「離して、やあ・・・」
楊ゼンは、多くを飲めないまでも、師とともに杯をしたかっただけで・・・。それだけの気持だったのに、
こうして苦しめられて、目に涙が浮かんだ。
悪い事をしたから怒っているんだ・・・。
そう思うともっと悲しくなった。

初々しい楊ゼンの話
しばらく続きますv