玉鼎は片膝を寝台に乗せ、楊ゼンへと体を寄せた。
  命じられた通りに自分から着物を
脱ぎ落とした楊ゼンは、彼の気配を感じても、顔を上げる事が
  出来なかった。

   相手が少しの乱れも着衣に見せていないのが、これほど羞恥を煽られるとは。
   ぎゅっと硬く瞳を閉じた幼い顔に、玉鼎は一瞬躊躇ったが、微かに苦笑すると後頭部に手を掛けた。
   唇に唇を合わせる。しっとりと包み込むような接吻で楊ゼンの様子を窺う。
   楊ゼンには、応える余裕など微塵もなかった。何度合わせても甘い吐息の唇の狭間を舌先で突き、
  開く事を求める。
 「どうした? 口を開けなさい」
   後ろ髪を引っ張ると楊ゼンが仰け反った。あっと叫びかけたのを逃さず、深い接吻が繰り返し行わ
  れた。
   充分に楊ゼンの唇を味わってから、玉鼎は一度体を離した。
   楊ゼンは、自失したように横たわっていた。時折全身に漣のような震えが走る。
   昨夜抱かれた記憶が脳裏に浮かび上がった。
   刻み込まれた苦痛は、これからまた行われる事に恐怖を呼び起こす。
   傷口は塞がれても、連夜の交わりでは再び開いてしまうだろう。
 「怖いか?」
 「・・・はい」
   返事を返す言葉の合間に、歯がかちかち鳴る音が聞こえた。
 「昨夜も優しく扱ってやった。おまえも身の内から起こるものに素直に委ねれば良い。苦痛と快楽は
 紙一重だ。
   真上から楊ゼンを覗き込む。玉鼎に引き取られてから一度も切っていない髪が、薄暗い部屋に蒼天を
 映したように見えた。
   幻影を振り払う為に楊ゼンの顔に纏わりつく髪を撥ね退け、無慈悲に命令する。
 「膝を立てて足を広げなさい」
   しかし楊ゼンは迷い、すぐに玉鼎の言葉に従おうとしなかったので、彼は自分の手でその膝を割った。
   抵抗はなかったが、恥ずかし気に両手で顔を覆う。
 「何をしている」
   即座に手首を掴んで引き離し、瞳を開く事を強要した。
   玉鼎は床に残した足も寝台の上に乗せ、楊ゼンの開かせた足の間に割り込ませた。立てた膝に
 手を添え、楊ゼンのものに唇を寄せる。
   昨夜、玉鼎によって初めての放出を教えられた小さく儚い象徴を、心ゆくまで楊ゼンの唇を味わった
 口で、賞玩するつもりだった。
   恐怖に竦んだそこに舌を這わせた。とたんにぴくりと膝が揺れた。楊ゼンの顔が辛そうに、そして
 困惑したかのように顰められている。
   弄られるのは初めてでもないのに、以前とは違う感覚に楊ゼンは戸惑っていた。先端から細い異物を
 差し込まれ、解放を促された昨日はただ痛みだけだったから。
   楊ゼンに悦びを植え付けるように玉鼎は執拗な愛撫を繰り返した。追い上げては退き、また追い上げ
 ・・・。
 「やあぁっ!」
   啜り泣きが漏れる。
 「どんな気分だ」
   弄んでいるものが既に情欲に屈した姿をしているのに、わざと言葉で追い詰めた。
 「苦し・・・い」
 「本当に苦しいだけか、楊ゼン」
   快楽を受け入れられないと、苦悶の表情を浮かべている楊ゼンが、玉鼎の理性を狂わせる。
   雪のように白かった楊ゼンを開いた。これからは自分の思い通りに反応するまでに染めたい・・・と。
   何時身に付けたのか、高い矜持と汚れを拒む無垢な魂。
   玉鼎は優しい笑みを浮かべて、楊ゼンの高ぶりから唇を離した。中途半端で放り出したまま。
   細い腰が、無意識に強請るように震え、顰められた顔が切なく歪んだ。
   もう一度口付けると、玉鼎は腿に手を滑らせた。しかし猛っているものにはぎりぎりの所で触れようと
 せず、周囲を丹念に刺激していく。
   やがて、指が奥へと潜り込んだ。
 「い・・・っ」
   楊ゼンの体が跳ねた。この場所に愛撫が及ぶ先は、裂かれながら受け入れなければならないだけ
 なのだ。
 「やだっ、抜いて、抜いて下さいっ」
 「煩い唇だ。さっきのように甘い吐息を漏らしてごらん」
   泣き出してしまった楊ゼンから涙を拭い、耳元に囁いた。
 「や・・・許して、下さい・・・」
 「拒めば、それだけ辛くなる。・・・わかるか?」
   戯れるように軽く出入りを繰り返し、入口を揉み解していく。
   初めは堅く侵入を嫌がっていた部分が、やがて玉鼎の技巧に反応し、緊張が解れてきた。そこは狭く
 男が入って行ける場所ではない。最初は無理に挿入した。痛みに泣き叫ぶのを押さえつけて。
   血を流していた傷が閉ざされているのを確認する。
   楊ゼンの体をうつ伏せに返し、腰を高く掲げさせる。背後からの方が、受け入れる負担が少ないのだ。
 「おまえ自身が選んだ結果だ」
   侵入は、楊ゼンが異変を感じる前に行われた。抵抗を捩じ伏せ、先端を突き入れる。それからは一息に
 体を進めた。
   苦痛の叫びが楊ゼンから漏れたが、動きを止めようとはしなかった。
   体重を肩で支える楊ゼンの髪が、うなじから両脇へ流れていた。玉鼎は小刻みに震える首筋に唇を強く
 押し付け、悦楽の半ばで見捨てたものに指を添え、ゆるく包み込む。
   玉鼎の繊細な動きにそれは敏感に反応し、先ほどの満たされていない愛撫の余韻も加わって急激に
 昇りつめた。
   後ろに咥え込みながら、放出を迎える。
   玉鼎の手に白い精を迸らせると楊ゼンの体はぐったりと力をなくした。解放して極めてしまった今、体内に
 打ち込まれた異物は苦しさだけを増幅させていた。
   しかし、玉鼎はこれで許すつもりはなかった。
   楊ゼンとの繋がりをより深くする為、胸に手を回して上体を抱え起こした。同時に自らは寝台に座して沈んで
 くる楊ゼンの腰を突き上げる。
 「あああっ!!」
   耐えきれずに叫びが溢れた。
   玉鼎の鋭敏な嗅覚が血の匂いを感じ取った。それでも尚密着させるように楊ゼンの腰を引き寄せ、再び前へと
 手を滑らせる。
   萎えたものに指を絡める。
   痛みに怯える楊ゼンを、強く、時に弱く追い詰めて堕とそうとした。
 「覚えるんだ楊ゼン。この痛みは歓びをもたらすもだと」
   すぐには理解できないだろうが・・・。
   さほど時間をかけずに楊ゼンは勢いを取り戻した。覚えたての精は、制御する術を身につけていないのだから。
 悲鳴は途切れ、荒く浅い呼吸音が続く。時折、唾を飲み下す不自然な音が混じった。 
 「どんな顔をしているのだ」  
   衝動的に玉鼎は慰めていた手を顎に持っていき、肩越しに振り返らせた。
   眉が憂いを含んで寄せられ、涙に覆われた青い瞳を飾る睫毛が震えている。うっすら開いた唇が、幼いながら
 扇情的な色を見せた。
   またしたも投げ出されたものに無意識に楊ゼンの手が伸びる。
   気づいた玉鼎が、させまいと遮った。
 「して欲しければ、私に頼みなさい。自分で触れる事は許さない」
 「・・・・!」  
   楊ゼンが肯定するまで、それをきつく握り締めた。
   新たな涙が頬を伝った。
 「良い子だ」
   激しく唇が重ねられる。 
   すぐに楊ゼンに二度目が訪れた。
   追いかけるように大きく突いた玉鼎が縛めを解き、最後に楊ゼンを抱きしめた。
 「師匠、師匠・・・、」
   玉鼎が身を離すと、うわ言のように楊ゼンが何度も名を呼び、指が彼を求めて宙を彷徨った。
 「どうした? 私はここにいる」
   もう一度抱きしめてやると、楊ゼンはしがみついて離れようとしなかった。
   胸にまだ小さな体を受け止めてやりながら、急速に闇へと落ちて行く楊ゼンの背を、玉鼎は優しくさすった。


         NETでは3でおしまい。4と5を合わせて本にします。