長くなり始めた春の陽がようやく落ちた頃、サワサワと窓から吹き込む風を背に、楊ゼンは
伸びをした。
疲労が体を濃く覆っている。一日執務室に詰めると、立ち上げるのも億劫なほどに消耗して
しまうのだ。
「・・・疲れた」
それでも、教主である自分の代わりはいないと思うから。生来、生真面目な性格の為、
この座についてから休みなく働いている。
ピー・・・。
テーブルから離れた場所にある機械から異音がした。小さなモニターが明滅している。
「ああ・・・」
溜め息が漏れた。楊ゼンは機械類との相性がとことん悪かった。いくら教えてもらっても、
彼が触れると言う事を聞いてくれなくなる鉄の塊。
下手に弄るより、仙界1の使い手である太乙を呼ぶ方が良い事はわかっていた。しかし、
それは楊ゼンのプライドを引き換えなのだ。


「ごくろうさまv」
太乙はバスケットを下げて現れた。修理道具でなさそうなので、楊ゼンは不思議そうに見つめた。
「パンとビスケットと果物とお茶」
蓋をパカッと太乙が開けた。
「僕は機械がおかしくなったと連絡したのですが・・・」
「これ?」
くすりと太乙は笑い、問題のディスプレイに向き合った。鮮やかに指を走らせていくのには、
驚くばかりで、嫌な色をしていたモニターはすぐに元の青に戻った。
「ほら、終わったよ。だから遊びに行こう」
「え・・・?」
突然手を引かれて、楊ゼンはつんのめった。
「ちょっ・・・太乙様! 遊びに行くって・・・僕、仕事!」
楊ゼンがわたわたと太乙を振り払う。掴まれた所が温かく感じられて、その手を胸に寄せた。
「燃燈師兄には了解取ったよ。君は根を詰めすぎるから息抜きに連れ出してやれって」
唇を楊ゼンは尖らせた。
「・・・どこへですか?」
「海へ」
ふっと楊ゼンの頭が揺れた。
「水が青い事を太乙様は知っていらっしゃいますか?」
「勿論だよ。どうして?」
「崑崙から見えるのは、濁った黄河だけですから。師匠に連れて行ってもらうまで知らなかった
のです」
色の薄い太乙の瞳が軽く見開かれた。
「私と同じだね」
「太乙様も?」
見上げてくる楊ゼンを太乙は抱きしめた。少しの間にもともと線の細い体はすっかりやつれて
しまっていた。
「私は大陸中央の出だった。水の青を信じられなかったのを、師兄が西海に・・・ね」
「東海でした、僕は」
「きれいだった?」
「はい」
「じゃあ、東に行こうか」
楊ゼンの肩を抱き、太乙は外へと誘った。


空が明るい。満月から僅かに欠け出した月が中天に白い光を投げ与えているのだ。
それ自体が発光しているわけではないのに。何故他の瞬きを消すほど、威張って存在するのか。
髪を風に嬲らせるままに太乙は空に視線を向けた。空の月、そして地上にある月。
パシャと水音がした。
「うわっ」
顔に当たった水に太乙は手を翳した。
「・・・太乙様」
水を掛けた張本人は、下衣を膝までたくし上げて、海に浸かっていた。人にしては白い肌が
天の月と同調している。
「まだ水は冷たいのに」
太乙は微笑んだ。晩春の海は確かに身を入れるには早すぎる。
「そうですか?」
首を傾げた楊ゼンだったが、手招きされると素直に水から上がった。濡れた足に砂がつくのを
嫌そうに払い、太乙の前に膝を折る。
「ビスケットはどう? まだ何も食べていないだろう?」
答える代わりに楊ゼンはあん、と口を開けた。
「困った甘えん坊だ」
紅を引いたように赤く色づく唇の間にビスケットを差し入れ、ついでに歯を突いてやる。楊ゼンが
噛んでこようとしたので、太乙は慌てて手を引いた。
「残念」
太乙の指を追って、ちろりと舌が覗いた。
「楊ゼン!」
腹いせに楊ゼンを押し倒す。蒼天を映す髪が波打って広がった。潮が満ちたように。
ザザ・・・
否、海はまだ先だ。太乙は頭を振って、妄想を追い払った。
「悪い子をどう罰してやろうか」
「太乙様の好きなように」
腕が伸ばされて太乙を引き寄せた。幼子が温もりを求めるにも似て、きつくしがみついてくる。
きつく締まった襟の留め具を太乙が外していく。
「これが・・・罰ですか・・・あ・・・あっ!」
憎まれ口を叩いてくるのを封じようと、乳首を摘み上げる。親指と中指で挟み、敏感になった
先端を人差し指で引っ掻いた。
跳ねる体の抵抗を楽しみ、執拗に弄るうちにあえぎが啜り泣きに変わった。
「や、やだ・・・もう、止め・・・胸をっ、んんっ触らないで・・・」
「罰だよ」
わざと冷たく言ってやる。
楊ゼンが悶えている間に上衣は全て外し、下衣に移る。ボタンだけを緩めて潜り込んだ手に、既に
形を変え始めたモノが当たった。
「これは何?」
「やああっ」
「嫌でこうなるの? 脱がさないとズボン、濡れてしまうね」
耳元に囁いて、一息に膝まで降ろす。肌に直接触れてきた外気に、楊ゼンはひどく竦んだ。
「どうして欲しい?」
楊ゼンに答えさせたかった。熱く穿たれたくても、長く男を交わっていない体、そのままでは無理な
事は気づいているだろう。・・・だから。
「濡らせて・・・慣らして、下さい・・・」
小さな声が告げてくる。
「どこを?」
「後ろ、を・・・」
「何で?」
「僕を苛めないで・・・っ」
答えではなく、哀願。
太乙がバスケットから、パンに塗るマーガリンを取り出した。
「舐めて君を蕩けさせてあげたいけど、私もあまり我慢出来そうになくてね。これで今日は許して
くれる?」
黄色い油を拭って翳してやると、頬を染めて楊ゼンは頷いた。
「は・・・あ・・・っ」
溶けてくる油の感触が堪らない。
「あまり締め付けない」
太乙がくすと笑んだ。
含ませる指を2本、3本と増やしていく。粘膜をを擦られる刺激に楊ゼンが嫌々と首を振った。
快楽を知るくせに、無意識に受け入れる事を拒む矜持の高さは相変わらずで・・・。それが抱く者に
加虐心を起こさせるのをわかっているのだろうか?
楊ゼンの脚を抱え、膝が胸につくまで折り曲げさせる。
はっと息を飲む音が聞こえると同時に、太乙は身を進めた。
「−−−あああっ」
白い喉を見せて楊ゼンが仰け反った。
太乙も、ぎちりと締めてくるのに顔を顰める。異物を排除しようとする粘膜を力任せに突く。
「い、痛い・・・っ」
青い瞳に涙が浮かんだ。
「少し、堪えて・・・。愛しているよ、楊ゼン」
「・・・はい」
体が裂けるほどに痛みにありながらも、楊ゼンが健気に言った。
太乙が唇で涙を拭ってやる。
ぎこちなく楊ゼンは自身を貫いてくる彼を抱きしめた・・・。


ザザ・・・
波が聞こえる。
「夜の海は深くてきれいだね」
吸い込まれていくように・・・。
「きれいで、怖いのかも知れないけど・・・」
ザザ・・・と、月に導かれて波が揺れる。

流様へ
全然大した物でなくってすいません!しかもリク頂いたのをこんなに時間が
掛かってしまったのも初めてで・・・。私の甘いのはこれくらいが限界なのでしょうか?
やっぱり痛いというセリフが出てしまいました。これに懲りずにまたお来し頂けたら
幸いです。