「・・・浄化、か」
玉鼎の眉が軽く寄せられた。闇色の瞳が険しさを帯びる。
まともに師の顔を見られず、顔を逸らせていた楊ゼンは、次の瞬間、机から引き摺り
落された。
「−−−!!」
髪を掴まれて体を起こされ、声にならない叫びが漏れる。
「汚れているのなら、それなりに扱わなければなるまい?」
破り去った楊ゼンの道服からまだ形状を残す帯を取り、後ろ手にきつく縛めた。
「・・・っ」
ただの帯布とはいえ、固く縛られれば手首に食い込む痛みは相当だった。
そんな楊ゼンを手荒く転がし、伏せに腰を掲げさせる。
「もっと足を開け」
見下ろした楊ゼンに命じ、腿の間に靴先を入れて無理に蹴り広げた。骨が軋む音が
聞こえるほどの強引さだった。
体を支えるべき腕を封じられている楊ゼンは、加えられる力に逆らえず、石の床に肩と
頬を激しく擦過してしまう。擦り傷から血が滲んだ。
天を向くほど高くさせられた秘所に、玉鼎の視線が突き刺さるのを感じ、楊ゼンの肌が
羞恥に染まった。
薄暗い室内を照らしていた明かりが揺れた。玉鼎が燭台を取って楊ゼンの傍らに膝を
つく。
「熱・・・っ」
舐めるほど近くに炎の熱が触れ、楊ゼンが腰を引いて逃げた。
「動くな!」
鋭い叱責とともに、開かれた脚の間に手が潜り、萎えたモノがぎゅ、と強く握られた。
それを潰そうとでもいうのか、ぐぐっと力が込められ、痛みに苦鳴が楊ゼンの口をついて
溢れた。
「言う事を聞かねばもっと痛みを与える」
「・・・師匠・・・」
火の熱さを意思で堪えるなどとても無理だ。体が本能が、心を裏切るのはわかりきって
いる。
「嫌、や・・・だ・・・怖い・・・」
「炎は全てを浄化する」
「止めてえっ!!」
秘裂に炎がちらつき、楊ゼンが跳ね上がった。
「あ、あ、あ・・・」
冷たい汗が流れた。
「浄化して欲しいと言ったのはおまえだ」
指が捩じ込まれる。一瞬とはいえ、炎に舐められた入口はびりびり痛んだ。
「痛い、ああっ、あ・・・」
「中も清めてやろう・・・」
自在に蠢き、絡みつく肉を味わっていた指が内部で開かれた。石榴のように真っ赤に
濡れ光る粘膜が燭明かりに照らされるまで寛げていく。
爪先を柔らかい肉に食い込ませる事で楊ゼンが動きかけるのを封じた。
炎が揺らめく。薄暗い室内の光と陰が、壁や床でダンスを踊る。
「や、怖い!」
熱が近付いた。
逃れようと身じろぐと、咥えさせられている指爪が容赦なく内壁に立てられた。
「師匠、お願い、おねがい−−−、ああああっ!!!」
炎は玉鼎の指をも巻き込んで楊ゼンを焼いた。じじじっとした音が二人の皮膚を絡める。
玉鼎が指で支えていた楊ゼンの体が重くなり、意識を失った事に気づく。
涙に濡れ蒼ざめた顔には怯えの名残があった。そのさらに奥に安堵の色が垣間見えて、
玉鼎は強く抱きしめた。
罰を与えられれば、赦してもらえるのではないか・・・・・・。
「私が封神されたのは決しておまえのせいではない」
楊ゼンを抱く身に、酸で溶かされた記憶が甦った。魂魄からだとなり、神界の住人となった
今は、傷など残ってはいない。しかし、それが精神に刻みつかられているのだ。


額に冷たい感覚があって、楊ゼンは瞳を開けた。
見慣れた寝台。見慣れた部屋。黒と青、西域の紫を基調とした落ち着きのある色彩。壁に
掛けられた時計がカチリと時を刻む。
冷たい物は濡らされた布だった。
「・・・師匠?」
「少し熱がある」
枕元に寄せた椅子に掛けた玉鼎が言った。膝に竹管を広げ、書を読みながら、楊ゼンが
目覚めるまでずっと側にいてくれたのだろう。体の弱かった幼い頃と同じように。
炎で傷を負ったはずなのに痛みは消えていた。
だから楊ゼンはまっすぐ玉鼎を見つめる事が出来た。
「しならくここに置いて頂けますか? 僕はすぐに戻る事は出来ないのです・・・」
「金霞洞はおまえの家ではないか。私はおまえに道士の資格しか与えておらぬ。楊ゼン、
おまえは未だ・・・否、これからも私の弟子だ」
玉鼎は立ち上がり、テーブルから盆を一つ運んだ。スープとイーストの入っていない平たい
パンが乗せられている。
「食べなさい。まずは元気になる事だ。抱き上げた時、おまえがあまりにも軽くなっていて
驚いた。体を養え。元に戻ればいくらでも抱いてやる」
スプーンを取り上げた楊ゼンの手が震えた。
「・・・はい、師匠」
「良い子だ」
髪が優しく撫ぜられるのが、涙するほど心地良かった。この温かい手を、自分はずっと待ち
望んでいたのだ・・・。
「何時も飾っていた花をまた飾ります。料理も・・・掃除も・・・」
「期待している」
ぽた、と涙が落ちた。
「師匠、玉泉山金霞洞、玉鼎真人門下楊ゼン、戻りました」
「ああ、おかえり。私の、楊ゼン」
涙を拭ってくれた指に、思わず楊ゼンは口付けていた。

もう少しこの話続けてみようかな。今回幸せちっくだから。