突然目の前に出された籠に、楊ゼンは目をぱちくりさせた。夜着に替えかけた手を止め、
いわくありげに笑みを浮かべている太公望をきっと睨む。
「今何時だと思っていらっしゃるのですか」
「真夜中を過ぎた頃かのう」
これみよがしのため息を楊ゼンは吐いてみたが、彼には
通用しないようだった。
「野いちごを摘みに行かぬか? 南の斜面に山ほどあるのだ」
「僕はもう眠ります。冗談もほどほどに。明日にでも誰かを誘って・・・」
ふいに髪を取られて、言葉が途切れた。
「濡れておるな。それこそ、こんな時間に湯浴みか?」
「・・・僕の勝手です」
楊ゼンはくるりと背を向けた。背後で太公望が椅子に掛けるのがわかった。
まだ帰る気はないらしい。
「この部屋では春を買えるようだが?」
「だから? いちご摘みは口実ですか?」
楊ゼンの青い瞳がすっと冷たさを帯びた。さりげなく着物の襟を合わせる。首や胸には幾つも、
男達に付けられた跡があったから。
「ふん、まだ男の気配がしよる」
靴が硬い床を蹴りつけた。
「口実なものか。行くぞ、楊ゼン」
強引に腕を引かれると、情事にだるく疲れた体では、逆らいきれなかった。
「ちょ・・・っ・・・師叔」
拳がぽかりと太公望を叩いた。
「おぬし・・・」
太公望の表情がうっすら悲しみを帯びた。
「何故、抱かれる相手が欲しい?」
「あなたには関係ない」
ぷいと横を向いた楊ゼンの前に回りこみ、青い瞳を見つめる。僅かの間に楊ゼンはかなりやつれた
ようだった。
封神計画に加わるまで、楊ゼンはほとんど玉泉山の道府を離れた事がなかった、というのを太公望は
思い出した。
淋しいのか、とは尋ねられなかった。楊ゼンの性格からして、否定するのはわかっていたから。
「・・・行くぞ」

籠を楊ゼンに押し付けて太公望は歩き出した。当然ついて来ると信じているのか、振り返りもしない。
楊ゼンが肩を竦めた。


足元一面に野いちごは広がっていた。空気にまで甘酸っぱい香りが満ちている。
「いっぱいになるまで摘んでくれぬかのう」
楊ゼンは返事もせず、ただ立ち尽くしていた。夜風に髪が舞っている。上着を着てこなかったので、
少し寒いのか、腕で体を抱きしめていた。
「仕方ないのう」
「する事をさっさと済ませて下さい。そうでないなら・・・帰ります」
あくまで人との関係を、抱く者、抱かれる者に限ろうというのか。楊ゼンが閉ざした心の固さに、太公望は
かっとなった。本当に楊ゼンは、彼を育てた者以外に目をやろうとしないのだ。
「では下肢をまくって、腰を掲げろ」
太公望が苛立った声を上げ、つかつかと近付いて楊ゼンの頬を打った。
月明かりの下、下肢だけを、という惨めな姿を要求されて、楊ゼンが硬直した。
「出来ぬのか?」
「・・・いえ」
震える指が着物に掛かった。
「下だけだ」
夜風に当てぬ配慮だったが、余計な屈辱と楊ゼンは受け取った。半端に体を晒すのは、全裸にされるより
羞恥をそそる。
「お望みのままに」
地に這った楊ゼンの、白い尻が高く持ち上がった。震えているのは、太公望の気のせいではないだろう。
彼の矜持が高いのは知っている。それが、夜毎男に抱かれるようになるとは。
「処女のように窄まっておるのう」
「ん・・・」
太公望
の手が双丘に掛かった。
「これでは交わりなど辛いであろうに」 
返事があるはず
もなかったが、痛ましそうに太公望は秘所に指を這わせた。ぴくぴくと反応して竦むそこは、
彼を拒んでいた。
「な、にをして、いるのですか・・・」
早く先を、と楊ゼンが促す。前戯も愛撫も必要ではなく、全てを忘れる程きつく貫かれる時、一時の温もりを
得、淋しさを忘れる事が出来るのだ。
「身を売る立場の者が煩いのう」
すっと摘んだいちごを太公望はそこに当てた。冷たい感触に驚いた楊ゼンが振り返る。
「せっかく来たのだ。春の味を知るのも良いではないか」
潰れるのも構わず、秘裂に赤い果実を押し込む。

「あ、ああ・・・」
果汁が脚を伝った。
「美味いだろうが」
体を動かさぬよう命じ、次々にいちごを食べさせていく。不快感は相当のものだった。
「止め・・・もう、挿れないで・・・」
哀願が楊ゼンから漏れた。赤い窄まりは、果実に塗れ、本来の色より淫靡さを増していた。
「では別のモノをやろう」
太公望が着物を寛げた。
「うっ、あああっ!」
貫かれて、楊ゼンの背が反り返った。ぎちりと強く絡みつき、挿入者が動くのすら難しい。それは、決して、
抱かれる事を望んでいる体ではなかった。
「楊ゼン、淋しいと・・・何故言えぬ? わしではおぬしの役には立てぬのか・・・?」
「い・・・うう、ん・・・くっ」
太公望は体の下で悶える楊ゼンの腰をきつく掴んだ。
楊ゼンが覆った殻が溶ける日が来るのであろうか、と。

春風に甘い香りが舞う。


あやこ様のリクでした。望楊で、裏です。
初めて書いてみましたが、もしかしたらこれ望楊じゃないかも、なのです。
すいません、あやこ様、またこれに懲りずにリク頂けましたら嬉しいです。
遅くなりまして申し訳ありませんでした。