喉が渇いたような気がして、楊ゼンは目覚めた。周囲は暗く冷たく、
夜明けにはまだ遠いようだ。
独りで眠る寝台は広すぎてころころ寝返りながら楊ゼンは端に寄った。
水差しを手にしてみたが、それはすっかり空っぽだった。何時もなら
共に休む師の為に忘れず用意するのだが、今日は独りだからとしなかった。
朝になるまで目覚める事がほとんどない楊ゼンだから。
それが・・・。
最初からうつうつと眠りは浅かった。些細な事で意識が覚醒してしまうほど。
楊ゼンは水差しを手にした。体が欲している物を得れば、少しは気持ちが
落ち着くかもしれない。
冬の夜は寒くて。石造りの屋敷だは特に冷えた。
「・・・?」
楊ゼンの靴が何かに触れた。質感のある物ではなくて、紙のようにそれは
ふわりと浮いた。
身を屈めて拾うと、赤い
花びらだった。
不快に楊ゼンが顔を顰めた。彼に飾る花は白。殊更存在を主張する色は気に
入らない。同じ赤でも椿の慎ましさなど微塵もないのだ。
踏みつけてにじり、花びらを粉々にする。
持ち込んだ人間はわかっていた。今日楊ゼンが独り寝をしなければならなく
なった原因。
胸がつきんとした。
水は汲んだのだが、足は知らず、自分の部屋を通り過ぎて・・・。
「・・・楊ゼンか?」
問いかけとともに、師のはやの扉が開かれた。玉鼎の姿に楊ゼンは正気に
返り、身を翻した。
「待ちなさい」
腕を取られる。
「覗きとは良い趣味だ」
漆黒の瞳が冷たく見下ろしてきた。
「違います!」
叫んだ楊ゼンは、強い力で室内に連れ込まれた。
黒と紫、そして青を基調とした玉鼎の部屋。小卓に置かれた赤い花だけが
異質だった。
「どうしたの? 師兄」
寝台から気だるい声がした。太乙が横たわったまま、じっと楊ゼンを見つめて
いた。
「おいでよ」
手招く太乙の動きに合わせて、香が広がる。きついとさえ思える菊花が部屋に
満ちていて、楊ゼンはそれに酔った。
「行きなさい」
玉鼎に押しやられ、バランスを崩したところを、身を起こした太乙に抱きとめ
られる。
「たまにはこういうシュチュエーションも悪くない」
太乙の唇が首筋に触れて、楊ゼンが粟立った。
「止めて・・・」
「君も楽しみたくて来たんだろう?」 
「嫌だ!」
暴れる楊ゼンに太乙が肩を竦めた。
「師兄、この子を大人しくさせていい?」
「ああ」
「師匠まで・・・」
玉鼎が寝台に近づき楊ゼンの顎を捕えて上向かせた。
青い瞳は潤んでいたが、中に屈辱の炎を抱えているのが垣間見える。
何時の間にか覚えたプライドと矜持。それを砕いてやりたいと、他者に感じ
させてしまうのを、知っているのかいないのか。
「ん・・・・」
 口付けられただけで、力が萎えるのがわかる。
「おやおやこらは一体どういう事かな? 師兄が相手だと」
太乙はくすくす笑った。
後ろ抱きにはがいしめる腕が楊ゼンの夜着の帯を解いた。左右に肌蹴た下の
肌はしっとり汗ばんでいる。
細い太乙の指が秘所を探った。つぷっと音を立てて入り口が割られる。
「・・・ううっ」
「きちんと解してあげる。師兄が楽に入れられるように」
本数を増やして、楊ゼンの苦悩を高めていく。首を仰け反らせ、顔を見つめ
ながら。
「楊ゼン、目を開きなさい」
玉鼎が命じた。
「・・・や・・・」
「そうか」
太乙の指が引かれたのに合わせて、玉鼎もまた捩り入れる。
「あああっ、痛い!!」
二人は楊ゼンの中でばらばらに動き、その度悲鳴を上げさせた。
「ほら、目開けた方がいいよ」
促されて、アーモンド型の大きな瞳が開いた。
「ここ弄られて悦い、だろう? なのに辛そうに憂んで、君らしいけど」
「どうして・・・師匠、太乙・・・様・・・」
「愛されるのに理由がいるか?」
「可愛い、楊ゼン」
額に貼りついた髪が弄ばれた。

続きます−−−