楊ゼンは上着の襟をきゅっと合わせた。それでも冬の寒気は容赦なく
体に染みて、楊ゼンを震えさせる。
  降り積もった雪の上を歩く足も冷たく痺れていた。
  雪橇を引く手を止め、ふと空を見上げる。
「また、雪・・・」
  灰色に曇った空から、白い雪が落ちてきていた。もう何日も明るい日差しが
ないのを楊ゼンは思い出す。
  雪と風の様子では、すぐに吹雪いてくるだろう。すぐに戻らなければ道を
失ってしまう。
  今さらながら、外に出た事を楊ゼンは後悔した。退屈な冬の日は、することも
あまりなく、暇を持て余した挙句、炭を取りに出たのだ。
  まだ切れるまでには間があったが・・・。一時的だったにせよ雪が止んだので、
橇を手に炭小屋へ向かった。
  夏の間に木を倒して作られる炭は、屋敷に煙が流れるのを配慮して、離れた
場所で焼かれていた。故に取りに行くのは一日仕事だ。
  雲を呼び、飛行する術を未だ知らない楊ゼンであれば尚更に。
  雪が酷くなった。横なぐりに吹きつけるのに楊ゼンは堪えられず、避難する事
にした。
「・・・哮天」
  張り出した岩の下に座り、呼び出した犬に体を凭せた。ふくふくした毛並みが
暖かく楊ゼンを包んだ。
  炭はあっても、火を熾す道具がないので、楊ゼンはただじっと犬に寄り添うしか
なかった。
「寒いね・・・」
  押し付けられる濡れた鼻先も氷のようで。
  ますます酷くなる雪に楊ゼンは見を縮めた。


  手荒に揺さぶられて楊ゼンは目を覚ました。知らない間にうとうとしていたらしい。
「楊ゼン」
  目の前には玉鼎がいて、それが不思議で楊ゼンが首は傾げる。
「し・・・」
  声が出なかった。体がすっかり凍えていたせいだ。
  気づいた玉鼎が、楊ゼンを抱き上げる。飛行獣の背にある時も、その腕の力は
決して緩まなかった。
  金霞洞の広すぎる屋敷は、風が遮られるというだけで、気温自体は外と何ら
変らない。
  歩く事も無理なほど冷たくなった楊ゼンを抱いたまま、玉鼎は地下へ降りた。
  湯がふんだんに湧く金霞洞の最下部に運び、楊ゼンを浸した。
  楊ゼンが、冷えた全身に染みる湯の熱さに顔を顰める。
「あまり心配をかけさせるな」
  濡れるのも構わず、玉鼎が手を差し伸べた。
「炭を取りに行くと出かけて、もう夕刻だ」
  長い指が湿った蒼い髪を掻き上げる。楊ゼンは少し身を離し、その手に口付けた。
「ごめんなさい・・・」
「ああ」
「師匠の・・・、手も・・・冷たい」
  楊ゼンを探して長く外にいた玉鼎もまた、冬の冷気を纏っていた。
「どうぞ、師匠もお入りに。僕を抱いていて下さい」
  願いを玉鼎は聞き入れた。
  着衣のままなのが気持ち悪く、もどかしげに道服を外そうとする楊ゼンに、玉鼎が
手を掛ける。任せてしまうと、下の単衣まで脱がされた。普段入浴は纏ったままで
するから。
「や・・・」
  自分だけが肌を晒すのが躊躇われた。
  膝の上に後ろ抱きに座らされるのも、子供扱いされているようで気にいらなかった。
  身じろいだが、しっかり抱きとめられていて、逃げられない。
「離して下さい」
「抱いていて欲しいとおまえが言ったのだ」
「僕は子供じゃありません!」
「確かに」
  玉鼎が笑った。
「子供ならこうはならぬな」
「ひっ!」
  湯を潜った手が楊ゼンを捕えた。
「何を考えてこうなった?」
  羞恥に楊ゼンは震えた。
  揉みしだくように扱かれると、切なさとともに、容量はより増した。
「ん・・、は、ぁ・・・やあ・・・」
「嫌か?」
  根元をきつく封じられる。
「達くのが嫌なら、留めておいてやろう」
「師匠、止めて・・・」
  体内深くを熱が巡った。捌け口のないそれに楊ゼンが悶える。
  耳元に寄せられた玉鼎の唇から覗いた歯が、甘く立てられた。
「はんっ!」
「嘘は終わりだ。おまえの望みは?」
  わざと逸れた指先が、軽く後蕾を擽る。
  楊ゼンの首が嫌々と振られた。
「素直ではないな・・・」
  二本の指が合わせられ、今度は深く楊ゼンを抉る。玉鼎が封じているモノがピクピク
反応した。
「は・・・、あっ、あっ」
  与えられた物は、始まりと同じで唐突に失われた。
「あ・・・どうして・・・っ」
  疼きが強い。
  指で開かれた所から・・・。
「止めないで、師匠、苦しい・・・」
  滴った涙が湯に波紋を描いた。
「そう言えるようになっただけ、進歩したか」
  玉鼎が背を押して、楊ゼンを離し、自身は湯の縁に掛けた。
  求められている事を知って、楊ゼンは跪いた。


  続きます−−−−−−