「・・・!!」 
ぼんやりとした意識の中、我知らず身じろいだ途端、肩口に抜けるような
痛みが走り、楊ゼンはうめいた。
全身に疲労がわだかまる。重たい瞼を上げると、豪華な室内が見渡せた。
闇から目覚めたばかりなのに、この視界の不自然さ。気づいているのか
いないのか・・・。楊ゼンが溜息を吐いた。
立った姿勢のまま、吊られているのだ。高い天井から垂れる鎖は、余裕を
持って楊ゼンの両手首を拘束していたのだが、長時間の放置に膝は砕け、
体重は全て残された腕にかかってしまっていた。
引き伸ばされた腕には筋が浮いている。指先は冷たく、感覚は既になかった。
周囲は淡い色で統一された部屋。繊細な彫刻の施されている家具が並び、
楊ゼンが見た事もない機械類が置かれている。それがいかにもここの住人らしい。
奥には、透かし模様の入った翠のカーテンが下がっていた。今、向こうは夜を
映すばかりだが、東に向いている故、朝の光は眩しく差し込むだろう。
美しい室内でただ、楊ゼンだけが異質で、惨めだった。衣服を奪われた全裸の
姿は、体の自由がナイ為に秘部を隠す事も出来ず、唇には打たれた名残の血が
こびりついている。
疲れた体に冷たい汗が伝った。
楊ゼンの記憶は定かではない。何時から、何故ここにいるのか・・・?
与えられた任の途中、自身の力不足を恥じ、ならば一度師の道府に戻ろうとした
所までははっきりしている。それから・・・否、それすらも他人事のように楊ゼンには
思えた。
ゆるりと楊ゼンは頭を振った。 
波間を漂うように、思考が霞んでいる・・・。
ふいに。
コツ、と。
静寂に満たされていた室内に音が響いた。
「あ・・・」
楊ゼンの瞳に、怖れと戸惑いが浮かんだ。
磨かれた床を、靴音が近づいて来る。楊ゼンを捕らえた張本人だった。
扉が開かれても、楊ゼンは顔を上げなかった。別に気にするでもなく、太乙が
くるりと前に回りこんだ。色の薄い髪が軽くなびく。
「いい子にしてた?」
顎に手がかかり、ついつ上向かされる。
「・・・・・・」
楊ゼンは答えなかった。
「私が帰ってきた挨拶は?」
太乙の眉が顰められた。
「まだ抵抗を?」
胸元を滑った指が、きつく乳首を捻った。
「ああ・・・うっ」
楊ゼンの体が撓り、その為に腕までもが痛み、蒼い瞳に涙が滲んだ。
不安定な楊ゼンを、太乙は髪を掴んで封じた。捻る指はそのままに、赤い唇が
酷く形を歪めた乳首の先を舐める。
「ひ・・・あ・・・んん・・・」
突くように小刻みに刺激を与えてやる。
「ねえ、挨拶は?」
抱かれる事を知る体は、すぐに陥落した。
「お・・・帰り・・・なさい・・・」
しかし、太乙はそれでは満足しなかった。高い音を立てて、楊ゼンの頬を打つ。
直っていない唇の傷が開き、血が滴った。
「お帰りなさいませご主人様、くらい言って欲しいな」
太乙が声を出して笑った。
「冗談だよ」
鎖が緩められた。支えを失った楊ゼンが崩れ落ちる。
「何をしているんだい? 四つん這いになりなよ」
足先が、伏せる腹の下に差し入れられ、ぐいと持ち上げる。
痺れる腕では上手く体を起こせないのを知っていて、太乙は命じる。 
「痛い思いをしないと、言う事をきけない・・・馬鹿な獣だね」
「太乙様、腕が・・・」
「腕がどうかした?」
「痺れて、動かない・・・」
「ふうん。じゃあそこにいるだけでいいよ」
太乙は椅子に腰掛けた。横のテーブルには、果実の盛られた皿と、酒瓶が
置かれている。
「冷酒には寒いかな」
爪が、グラスを弾いた。
「楊ゼン、温めてくれる?」  
悪い予感に楊ゼンが体を竦ませた。
立ち上がった太乙が、棚から口の直径3センチほどの瓶を取った。
「実験用ので趣がないけど、君の体ではこれくらいが限界だろう?」
細い指が、つるりとした底部に香油を塗りつけた。
「もう・・・何をされるかわかるよね?」
太乙が膝をつく。                   
「や・・・、止めて・・・」
じり、と後退さった腕が捕らえられた。
「動けないんじゃなかったっけ?」
「太乙様・・・」
「嘘つきだね」
体が荒っぽく押さえつけられた。楊ゼンの吐息で床石が曇る。
「ほら、さっさと腰を掲げるんだ」
嗚咽を漏らしながら、楊ゼンが太乙の望む姿勢をとった。
「後2、3回叩かないと駄目だと思ったけど」
太乙が苦笑して差し出された果実に手を掛けた。
「抱かれる時のように、体を緩めて・・・」 
言われても、恐怖に窄んだ蕾は綻ばなかった。
「君が、悪いんだよ」
そのままで・・・広げた掌ほどの長さの物が捩じ入れられる。
「あ、あああ−−−っっ!!」
楊ゼンが仰け反った。 
「冷たいっ、や・・・ああ・・・、中が・・・っ」
「まだ子供だからかな? 君の中はとても熱いから、辛いね、きっと。でも私の
為に早く温めて」
体の内側から体温を奪われて、楊ゼンががたがたと震えた。
「許して・・・」
唇が紫色に変わった頃、ようやく太乙は許す、と口にした。安堵の息を楊ゼンは
吐いたが、瓶は抜かれる気配がなかった。  
カチリと硬い物が瓶に触れた。
「腰を落として」 
「え・・・?」
「君の腰で酌をするんだ」
太乙が、脚の間から楊ゼンを包んだ。
「やりなさい、ここを・・・苛めて欲しい?」
揉みしだかれると、嫌がって楊ゼンの尻が落ちた。
「ストップ。これ、小さな杯だよ?」
罰とばかりに、強く握られる。
「あうっ!」
「さあもう一杯」 
楊ゼンは瓶が空になるまで、惨めに腰を上下させられた。
今度こそ、ぐったり床に伸びた楊ゼンを、太乙が足で小突く。
「まだ、私のベッドの相手があるよ。眠るのはそれから」
涙に覆われた瞳が太乙に向けられた。
「どうして・・・」
「気まぐれ。心配しなくても、飽きたら、終わりだ」
ベッドへ、と命じられて、楊ゼンが諦めと共に頷いた。

YU−MA様
大変遅くなりました。この2週間、何やっていたのでしょう・・・謎です。
原稿もろくにしていないというのに。
でも、冬の新刊は乙楊の閉じ込めものです。(・・・酷いものですvv)
こういう感じの暗ーい話が長ーく続きます。
結局ベッドシーンまで行き着かなかったです。すいませーーん。
最近こう、交わるでもない801という物を追及したいなあ、なんて考えて
しまうのです。

お粗末さまでした。
また懲りずにリク頂けましたら、喜んで書きます! 何強調してるのでしょう、私vv