次に楊ゼンが意識を取り戻した時、周囲の色が一変していた。
                   大陸の西で造られる珍しい紫、地に囲まれた海の碧に闇の黒。
                   眠っている間に玉鼎の部屋に運ばれたのだ。否、最初からここにいたのか・・・?
                   疲労が濃すぎて、楊ゼンの記憶は混濁していた。
                   眠ったはずなのに、何故こんなにも疲れているのだろう? 楊ゼンは考えながら、
                  またうつらうつらし始めた。
                  「何時までそうしているつもりだ?」
                   頭上から玉鼎の呆れたような声が聞こえた。呼んでいるという事はもう朝になった
                  からだろう。
                   ふっと頭を回らせ、霞む視界で師の姿を認めたが、楊ゼンは起きたくなかった。
                   師の前で礼に反するのはわかっていたが、これほど体調が悪ければ、許して
                  もらえるはずだ。幼い頃、熱を出したり風邪をひいたりした時のように。
                  「粥を持って来た」
                  「・・・・」
                  「何か口にしないと体が保たぬ」
                  ”欲しくない、食べ物など。ただ、休みたいだけだから・・・”
                   要りませんと制止をかけた手が掴まれた。
                  「言っている事がきけないのか?」
                   溜息。
                  「仕方ない」
                   途端に、楊ゼンを痛みが襲った。痺れて感覚を失っていた下半身から、それは
                  起こった。
                   楊ゼンの瞳が一度大きく見開かれ、次いで苦悶に細く眇められた。
                  「ううう・・・っ」
                   異物が振動していた。体の奥深い所で。内壁を揺るがし、擦り、容赦なく楊ゼンを
                  責め立てる。  
                  「く・・・ああ・・・!」
                   動きが激しくなると、楊ゼンがのたうち回った。
                   強烈な振動だった。 
                    しばらく苦しめるだけ苦しめると、始めリと同じく唐突に動きは止まった。
                   楊ゼンは肩で喘いだ。心臓が早鐘のように脈打っている。
                   頭に血が昇り、頭が痛んだ。
                  「起きなさい。今のを再びされたくないならば」
                   のろのろと立ち上がると、楊ゼンの脚に冷たい金属が触れた。痛みを与えられた
                  部分から細い金のチェーンが垂れていた。
                  「師匠・・・」
                   昨夜の事が思い出された。
                   未だ、赦されてはいなかったのだ・・・。  
                  「おまえがもう少し良い子になったら外してやろう」  
                  「どうしたら・・・いいのですか?」
                  「まずは素直に、心に正直になる事だ」
                   簡単そうで、難しい内容だ。
                  「椅子にかけて食事をしなさい」
                  「・・・はい」
                   座ると、異物に圧迫されて苦しかった。
                   思わず戸惑い、躊躇した肩を、玉鼎が押さえた。
                   手にした匙がかたかた震える。力が入らず、しまいには取り落としてしまった。
                   玉鼎が新たな匙で、粥を掬って楊ゼンの口に運んだ。
                  「熱・・・っ」
                   唇に触れた粥を楊ゼンが拒んだ。
                  「ああ、おまえは熱いのが苦手だったな」
                   玉鼎は自分の口元で息を吹きかけて冷ましてから与えた。雛に餌をやるように
                  時間をかけて食べさせる。
                   最後に水を飲ませてから空になった食器を下げた。
                  「私に接吻を」
                   突然言われた楊ゼンが強張った。
                  「師匠?」
                  「おまえから」
                   動こうとしない楊ゼンに、玉鼎は肩を竦めたが、休んで良いと告げる。
                   しかし、自室に戻る事、体内の物を抜く事は赦されなかった。
                   痛めつけられたせいで、逆らう事を怖れ、楊ゼンは負担をかけない為にうつ伏せに
                  横たわった。
                   玉鼎が枕もとに腰掛け、宥めるように背に触れた。
                  「ん・・・」
                   くすぐったくて、楊ゼンから甘い声が漏れた。そんな自分に驚いて、赤い唇が
                 噛み締められる。
                  「堪える必要があるのか?」
                   指が双丘に到達した。狭間を伝い滑られると、成熟しきれていない体が緊張した。
                   男を迎える慎ましい口が内部の異物に引き攣れていた。ぴったり閉じられた秘裂から
                  伸びる鎖が淫らがましい。
                   軽く鎖を引くと、苦鳴が聞こえた。自然に抜けないように、収めてから容量を拡大
                  させていたのだ。中で大きく開いた球形の物が楊ゼンを苦しめ続けている。
                   麻痺していた部分の感覚が戻りつつあり、それが余計に、辛い。
                   羽音を思わせる音が発生した。
                   楊ゼンの背が撓る。
                  「−−−−!!」
                   異物が振動を始めたのだ。 
                  「あ・・・あっ、あああ!」
                   先ほどをは違い、動きは弱かったせいで、楊ゼンには苦痛とは別の刺激を与える事に
                  なった。体が痙攣のように震えている。
                  「好きなだけ楽しめ。達くのも構わぬ。ただ・・・」
                   楊ゼンの腕を取り上げ、後ろでに領巾で縛める。
                  「自身で慰めるのは駄目だ」
                  「も・・・う、やだ・・・っ、師匠・・・!」
                   昨夜から苛まれていた。夜が明けても解放されず、疲れて苦しくて堪らないのに。
                  しかも抱かれたせいではないのだ。玉鼎はまだ楊ゼンと体を交わせてはいない。
                   もがきながら玉鼎に縋った体は、支えられはしたが、寝台の中へ戻された。
                  「時間はたくさんある。ゆっくり考えなさい。おまえが何をするべきか、私が何を望んで
                  いるか」
                  「ああ・・・」
                   楊ゼンがすすり泣いた。
                   伏せた頭から流れる髪を、玉鼎は二度、三度梳いてやってから立ち去った。
                   残された楊ゼンの泣き声が大きくなった。
                  「何故・・・、どうして・・・っ!」
                   堂々巡りの問いが、閉じられた帳に跳ね返った。   


                  まだ結論が出ないですう。後もう一回くらいお付き合いいただけましたら
                  幸いです。