差し込む光の眩しさに、楊ゼンは目を覚ました。
寝台と部屋とを分ける帳が大きく開かれている。
テラスから入った朝のきらめきが、楊ゼンをいっぱいに覆っていた。
ごろりと寝返りを打つ。
すぐに自分が広い寝台に独りなのに気づいた。ぬくもりさえ残っていないので、玉鼎が去ったのは、
ずいぶん前なのだろう。
「また僕が遅かった・・・」
楊ゼンは玉鼎の寝顔を見た事がない。寝台を共にしている時でさえ。
尤も、玉鼎の私室に夜呼ばれるのは抱かれる為で、激しい交わりは、楊ゼンの意識など粉々に
吹き飛ばしてしまうのだが。
「朝ごはん作ろう」
寝台を降りて、楊ゼンは白い単衣をゆるく着けた。表へ出る姿ではないが、屋敷に中にいるには
これで充分である。
ふと楊ゼンの顔が顰められた。
もう慣れてしまった痛みを感じたからだ。限界まで広げられていた部分を中心に、ずきずき疼くような
痛み。
「ん・・・・」
テーブルに両手を付いて、体が落ち着くのを待つ。くらりと眩暈までがあった。
眠らせてもらえた(意識が無くなった)のが遅かったので、疲労が回復しきれていないのだ。
もし楊ゼンがこのまま横になって一日を過ごしても、玉鼎は何も言わないだろう。
しかしそれを理由に日々の務めを休むのは絶対に嫌だった。楊ゼンは女ではなく、愛人でもないの
だから。
菜園で摘んだ野菜で、サラダを作る。イーストを入れないパンと、絞った果実。金霞洞の食事は質素だ。  
日ごとの糧は、気候の良い玉泉山で取れる物ばかり。
楊ゼンの野菜を刻む手はぎこちなかった。台所仕事は一通り太乙に習ったのだが、簡単には上達しない
事のようだ。
指先が不器用なんだよ、という太乙の言葉を思い出して、楊ゼンはぶんぶんと首を振った。
生きてきた時間は格段に違うけど、太乙には負けられない。玉鼎の一番で、いつもいたい。
「もう起きていたのか」
ふいに扉が開いた。
「おはようございます」
「ああ」
玉鼎がダイニングの椅子に腰を降ろした。
「水を一杯くれないか?」
「はい、すぐに」
グラスを差し出した楊ゼンを、玉鼎が見つめた。
「顔が赤い。熱でもあるのか?」
楊ゼンが軽く睨み返す。 
「師匠のせいです」
「おやおや」
膝に後ろ向きに座らせ、髪をくしゃくしゃに掻きまぜる。
「止めて下さい・・・っ」
制止の為に上がった手は捕らえられ、玉鼎はそれを唇に含んだ。
「今年のトマトは糖度が高い」
言われて、楊ゼンはさっきまで刻んでいたのがトマトだったのを思い出す。 
「いや、おまえの指が甘いのかな?」
気づくより早く、玉鼎は単衣の帯を取ってしまった。
「朝から冗談は止めて下さい」
「冗談?」
耳元で、囁かれて、楊ゼンの背にぞくりとした震えが走った。50
両手を胸の前で揃えさせ、帯で括る。リボンをかけるように緩かったので、楊ゼンは抵抗せず、されるままに
していた。
「光の下で、自分がきれいだと思わないか? 楊ゼン」
「恥ずかしいです」
身じろぐ体を玉鼎は抱きしめ、顎に指をかけると、楊ゼンの唇を奪った。
深い接吻。離れては繰り返され、絡めた舌を吸い上げる。
「甘い・・・吐息」
玉鼎の指が唇を辿った。
「細い、首」
そして喉へ。
「少し力を入れれば、簡単に折れてしまいそうだ」
構わないと楊ゼンは思った。
「薄い肩。すんなりとした肢体」
体に触れる玉鼎の道服が心地よい。
「全てが私は愛しい」
楊ゼンがきつくしがみついた。
「師匠、大好き・・・」
テーブルの上に押し倒される。単衣は簡単に奪われた。光が、楊ゼンを包み隠さず照らしだす。
「はう・・・っ」 
愛撫は優しく、それでいて容赦なく楊ゼンは追い上げられた。
すんなりと赦された解放。溜息に似た吐息と共に、楊ゼンの全身から力が抜けた。
玉鼎の手がさらに大きく楊ゼンの脚を広げさせた。あえて腰に添えられない手に、楊ゼンは自ら
脚を玉鼎に絡ませる。
楊ゼンの、望んだ意図を察した行動に、玉鼎が微笑んだ。
「良い子だ・・・」
瞬間、貫かれて、楊ゼンが仰け反った。
「あ、あああーーーっ!!」 
内臓を突き上げられる苦しさ、狭い入口を引き伸ばされる鋭い痛み。それらは幾度受け入れようと、
決してなくなりはしないのだ。 
自由のない両腕が宙を彷徨い玉鼎を求める。
「私はここだ」 
涙を拭い、楊ゼンの手を頬に触れさせてやった。
「師匠が好き、もっと・・・酷くされても・・・いい・・・」
楊ゼンが切れ切れの言葉で訴えた。
「おまえが望むなら」
体が二つに折られ、真上から捻り込まれた。
迸る悲鳴。  
それでも、より玉鼎を実感出来る。だから・・・どれだけ酷くされても良いと、楊ゼンは思うのだ。
「愛している、楊ゼン・・・」
玉鼎の声がおぼろになった意識に響いた。


情事のあったテーブルで食事をするのが、楊ゼンは恥ずかしくて、全てをテラスに運ぶ。
玉鼎はそれがおかしくて堪らない。
「笑わないで下さい。準備出来ましたからどうぞ」
ぷっと膨れた楊ゼンを手招き、パンを二つに裂いて与えた。
「一つの物で、私たちが満たされるように」
「はい」
楊ゼンはその、イーストの入っていないパンを口に入れた。

And He took the five liaves and the two fish,and looking up toward heaven,
He blessed the food and broke the loaves and He kept giving them to the disciples
toset before them; and He divided up the teo fish among them all.