つい、と細い腕が伸びて、寝台の脇に置かれた小卓の水差しを取り上げた
昨夕から用意されていて水はぬるく、冷たさには程遠かったが、乾いた喉を潤すには充分だった。
全身を疲労が色濃く覆っている。僅かに身じろぐのさえも億劫になってしまうほどに。
しかし、閉じたカーテンの隙間から差し込む朝日が、生あるものが活動を始める時刻だと告げていた。
陽が中天にかかるまでを生気という。天と地、およそ光の下に属する生物にとって最高の時。
太乙は窓辺に近寄ってカーテンを開いた。次いで窓も大きく開け放つ。初夏の風が、心地よく肩口で
切り揃えられた髪を弄った。
「玉鼎、そろそろ起きなよ」
白い夜着を纏いながら、太乙が振り返る。彼が今までいた寝台には、一人の訪問者がいるのだ。
「ほら。私の所にはあなた好みのお茶はないけど、軽くつまむ物くらい出してあげるから」
半ば伏せるように眠っている玉鼎を上から覗き込む。
「玉鼎・・・!」
手をぐいと引かれて寝台に組み敷かれた太乙の喉が掠れた音を立てた。
太乙は今度は玉鼎を見上げる形になる。吊り目がちの瞳が動き、伸しかかる男を睨んだ。
「眠ってると思ってた。ふりなんてひどいね」
「おまえが煩いからだ」
「煩い? どこが」
答えはなく、玉鼎はは太乙の首筋に顔を埋めた。
「ちょっ・・・、昨夜あんなにやったじゃないか。もう嫌だよ」
抗議の声は吸い取られ、反抗する体は力で封じられた。 太乙の華奢な体では、抗う事など出来は
しないのだ。
二人のものの潤いが残っている秘所を探られ、新たな愛撫もなく突き入れられる。
「ひっ・・・ああ−っ!!」
太乙が仰け反った。衝撃に全身ががくがくと痙攣する。
「痛い、痛・・・」
「嘘だな。ここをこんなに感じさせ、私を咥えている場所を湿らせて何を言う」
握りこまれると悲鳴が上がる。反応の良さは、さながら一つの楽器のようだ。それもとびきりの音を
奏でる・・・。
「後ろのは、ほとんどあなたのじゃないか!」
先端を意地悪な玉鼎の爪先が弄る。
「もう無理・・・出ないよお・・・」
泣くまいときつく閉じられた瞳から、雫が一筋流れた。気づいていないであろう涙を玉鼎が優しく舌で
辿る。
「ん・・・や・・・」
「まだ嫌と言うのか」
背に腕を回し、太乙の体を抱え起こした。自らの重みで限界まで貫かれてしまう。
内壁を擦られ、脳髄に突き刺さるほどの刺激。
「玉鼎、ああ・・・」
体の内側は何故こんなにも脆いのだろう。
玉鼎にしがみついた腕に力が入らず、長い黒髪を絡めて二度、三度滑った。
突かれ、抉られる度に太乙を襲う、痛みと苦しみと、内臓を押し上げる圧迫感と、そして否定しようの
ない快感。
熱い波に呑まれてしまう気配に、理性という名の意識が抵抗した。
「堕ちるがいい、太乙」
「やだ! 嫌だ! ・・・あ・・・」
艶めいた吐息。玉鼎は彼が舞い落ちたのを知った。


「何かあったの?」
ぐったりと寝台に伸びていた太乙が、湯を使って戻って来た玉鼎に尋ねた。
「夜更けに突然訪れるなんて。尤もあなたが来るのはいつも突然か。普段は私の方が行くし」
「嵐が来るな。西の空が暗い」
「ねえ玉鼎」
「大気も重い」
太乙はため息を吐いた。
「・・・そうだね」 
お互いに深く詮索しないのが、暗黙の了解だった。長すぎる時間を玉鼎と共にいる太乙だが、彼の事を
多くは知らない。
好奇心に駆られてしつこくなれば、玉鼎は太乙から離れていくだろう。
太乙は分かっているから。
道服を身に付ける玉鼎を、太乙はぼんやりと見つめた。
「何をしている、私に茶を煎れてくれるのだろう?」
「起こしてくれたらしてあげる」
言いながらも太乙は自分で起き上がった。朝の光の下にほっそりとした肢体を惜し気もなく曝し、戸口に
向かう。
「・・・玉鼎」
「ん?」
「愛してるよ」
くすくすと笑いを残して太乙は消えた。
気まぐれな猫のようだと玉鼎は思う。形の良い唇が微かに上がった。
光が長い黒髪を照らし、漆の色を際立たせていた。